読んだ感想
この小説は乱歩の作品の中では少年向けになります。少年探偵団が活躍し、怪人二十面相も出てきます。少年探偵団はちょうど読者である少年たちと同年代で、読者の少年たちは自分と同年代の少年探偵団が活躍する姿に刺激を受けたことでしょう。
一方、先日読んだ黒蜥蜴は同じ明智小五郎がらみの作品になりますが、黒蜥蜴は妖しい雰囲気をもった大人向けの作品です。本作、鉄人Qは少年探偵団も活躍する少年向けの作品です。このように乱歩の作品は幅広い読者層に向けて書かれています。
鉄人Qは、計算が得意で将棋も出来ます。顔を白っぽく塗ったように見え、ぎこちない変な歩き方をしています。体格は大柄で肩も張り出して力も強いです。しかも銀行や宝石店で事件をおこす危ないロボットなのです。
ロボットといって思い出すのは、50年近く前の特撮ヒーローもので、やられた敵は体の中に様々な歯車が入っていました。そんなもので動くはずないでしょう、とその時は見ながら思っていました。それよりももっと古い時代に発表されたのが本作ですので、そう考えますと意外と先進的です。
そして、歯車はロボットの象徴として、これは人のカタチをしていますが、このように歯車が入っています、というイメージ付けだと解釈すれば納得できないこともありません。特にロボットが壊れたときに歯車が出てきます。その時にやっぱりロボットだったのだと理解できます。
因みに、現代のロボットの発達は人型ロボットというよりは(もちろん人型のものもありますが)、産業用の人型ではない生産ライン用のロボットが多いです。また、頭脳としてはAIが大分発達して、まさにAI対プロの棋士というのも実現しています。
物語の最初はQのおこした事件を解決していく少年達が活躍する話です。そこからQとは、誰が、何のために造ったか、が少しずつ分かり始めてきます。決して科学者が科学技術の発展のために造ったわけではありません。
忘れていたわけではありませんが、この物語は、明智達と怪人二十面相の話なのです。途中までは明智小五郎も二十面相も出てきていません。ということは、前半のQが動き回っている時は、まだ本格的に物語が展開したわけではないのです。
Qはもちろん最後まで出てきますが、明智と二十面相といえば、変装していったい誰の姿で登場するか興味がわきます。両者がどのようなときに登場して、それは本人の姿なのか、だれかに変装した姿なのか、考えながら読んでいくことも楽しみのひとつです。
明智達(少年探偵団含む)と Qの対決、Qと二十面相との関係性と因縁、明智達(少年探偵団含む)と二十面相の対決、三つ巴のようでいてそれだけではない絡み合いが進んでいきます。しかし、私としましたは、Qとは結局何だったのを考えてしまいます。
Qは、自分で考えて話すことが出来、自分で歩くことも出来ます。そんな夢のような未来を感じさせるロボットして登場しますが、実はそんなものはただの幻想でしかありません。だからQに対しては、そうだよね、そんなわけないよね、と思わず言葉に出てしまいます。むしろ納得感はあります。
老人とQ
少年(小学校4年)が公園で科学者だという老人と出会い、その老人の屋敷にいった少年が見たものはロボットでした。いわゆる人型のロボットで見た目も人間そのものです。しかし、鉄で出来ているのでたたくとコツコツ音がします。
目や口も動かすことが出来ますが、しゃべる声は録音機の音を流しているような、おかしなしゃべり方です。現代のAIのように計算が早くて将棋をさせます。しかし老人との対局では現代のAIのようにはいかないようです。
少年が見守る中、老人とQとの将棋対決は老人優位に運んでいきます。将棋の対決は老人に軍配があがりますが、なんとQが老人の上に倒れこんでしまいます。老人は下敷きになりもがいています。
その後Qは屋敷から逃げ出してしまいました。科学者は、街へ出てしまったQが何か事件を起こすのではないかと心配します。もちろんQの捜索はおこなわれましたが、発見することはできませんでした。
Qの足取り1
台東区のとある銀行に白っぽい顔をした肩が張り出した大きな男がやってきました。見た目があやしい大男が銀行にあらわれたら、当然ながら、おとなしく順番をまって預金を下ろすことはしません。
そのあやしい大男は店員が受け取ろうとしたお金を、横からくすねて外に出てしまいます。しかし、大男はどこかにかくれてしまったのか、見つけることが出来ませんでした。人々はあんなことが出来るのは、きっとQだと言いだし始めました。
その後、上野のとある商店にあの白っぽい顔をした、肩が張り出した大きな男がやってきて、食料品を買っていきました。商店の店員は変な歩き方をしているその大男のことを不思議に思い、銀行での出来事を知っていた店員は、あれはQなのではないかと考えました。
その店員はQと思しき大男を尾行して上野公園の方に入っていき、さらに進んで五重の塔のところまでいきました。そこにQが隠れているところを発見したので、交番に知らせて警察がかけつけます。
ところがQはどこかに消えてしまい見つけることが出来ませんでした。Qはどうやってその場から消え去ってしまったのでしょうか。大男にしてはとても敏捷ですが、はたしてそんなことがロボットのぎこちない動きのQに出来るのでしょうか。
Qの足取り2
今度は新橋の宝石店に大男があらわれます。大男は陳列されている宝石類を指さしたので、店員はそれらを取り出しましたが、その宝石類を大男は自分のポケットにしまい店の外に出てしまいました。
ここでもその大男はどこかへ消えてしまい、人々は不思議に思いその特徴からQではないかと考えました。その後も行方を捜しましたが見つけることが出来ませんでした。
ここまで読んで思うことは、そんなにあやしい大男が色々なところに出没したら、今だったら瞬時にネットに映像が上がるので、もしかしたらあれはではなくてQがあらわれたとなるでしょう。
しかし、映像を含めた情報がなかなか伝達しづらい世の中ですと、どうしても言葉での情報伝達が中心になりますので、しかも見た事がない人がいきなりQを見たら、それがQだとは中々わからないものなのでしょうか。
まとめ
ここまではいわば導入部分です。
鉄人Qは、
・頭がよく計算が得意で将棋も指せます。
・顔は白っぽく塗ったように見え、
・とても変な歩き方をしています。
・体格は大柄で肩も張り出してます。
・事件をおこす危ないロボットです。
・科学者が科学技術の発展のために造ったわけではありません。
この物語は、明智達と怪人二十面相の話です。
・明智と二十面相が、どのような姿で誰として登場するのか?
・登場した人物は、本人の姿なのか、だれか違う人物なのか?
私としましたは、Qとは結局何だったのか考えてしまいます。
・Qは、自分で考えて話すことができ、
・自分で歩くこともできます。
・そんな夢のような未来を感じさせるロボットして登場しますが、
・しかし、実はそんなものはただの幻想でしかありません。
だからQに対しては、
・そうだよね、
・そんなわけないよね、
と思わず言葉に出てしまいます。むしろ納得感はあります。
ものごとは現実的に考えることが必要です。
乱歩のいじわるなのか、現実的なのか考えてしまいます。
書籍データ
鉄人Q
著者:江戸川乱歩
青空文庫より書籍データをDLしています