古典ミステリー
アンゴウ 坂口安吾
読後の感想
読むのにかかった時間は24分でした。短時間にお手軽に読めて、でもちょっと感傷にもひたれるショート・ヒューマン・ストーリーです。
物語は主人公が古本屋で旧友の印がある本をみつけて購入するところから始まります。その本には紙がはさまっていましたが、その紙には数字が書いてありました。その数字を読み解いていって一つの仮説にいき着きます。
また、本にまつわる奇縁がいくつか登場します。例えば、古本屋で旧友の印がある本をみつけて購入したことや、その本はかつて自分も所蔵していたが自分の所蔵本は戦火で焼失してしまったことなどがあげられます。
題名に既にアンゴウと入っていますので、暗号がでてきてそれを解読したらある事実がわかりますという、実にシンプルな構成になっています。
その暗号のやり取りはいったい誰と誰のあいだでおこなわれていたのでしょうか。それは一体何のためだったのでしょうか。また、本がたどっていく運命と人々がたどっていく運命が重なり合うと何が浮び上がってくるでしょうか。
本を使って暗号のやりとりがおこなわれていましたが、誰と誰が何のためにおこなっていたかを縦軸としたら、本が人の手を介しながら移っていくという本にまつわる奇縁は横軸となるでしょう。
縦軸と横軸がまじわって、誰と誰が何のためにやり取りしたかが分かったときに、物語のトーンがガラリと変わっていきます。最初の仮説が立てられたときはミステリアスな空気感をだしていましたが一気に転換していきます。
暗号が読み解かれてある事実が分かったとき、ミステリー小説の殻がはがされていって、そこには違った姿が現れます。主人公が真実を知ったとき、もやもやとした頭の中の霧が晴れていきます。そして読んでいる方もとても澄んだ空気の中にいるようでした。ものすごくほっとしたり、一方では感傷にひたったりという気分になりました。
以上